8年がかりで完成させた
眼も舌も喜ぶ夏イチゴの真打

イチゴの旬といえば年末から春というのが、これまでの常識でした。ところが近年は、国産品の端境期である夏に旬を迎える新品種が次々と登場。「夏イチゴ」と呼ばれるその多くの品種は、ケーキなどの菓子材料の需要に応えて誕生しました。そのため、色や形、果肉の硬さなどの見た目の美しさ、職人さんの使いやすさを追求して、品種改良が行われてきたといいます。

そんな夏イチゴの世界に新風を送り込んだのが、生食用品種「夏瑞」です。老舗の和菓子屋や有名洋菓子店、大福専門店など…。名店からの引き合いが多い「夏瑞」はひと粒が大きく、掌に載せるだけでみずみずしさが伝わってきます。甘い香りを放つふっくらとした果実を頬張れば、豊かな果汁が口中にほとばしりました。口元に深い余韻がいつまでも残ります。ケーキに用いられる夏いちごの市場価格がひと粒、数10円に対し、夏瑞はその10倍。プレミアム級の価格にもかかわらず、果物の目利きがこぞって採用したくなるのも、なるほど納得です。

繊細な旬の色香を
そのまま消費地へ

「12年前から品種改良に取り組み、8年がかりで私たちが目指していた“美しさと美味しさ”を兼ね備えた夏イチゴができました。数多くの交配の中から誕生した夏瑞は、私たちの自信作です」。誇らしげに話をしてくれたのは、夏瑞の生みの親、高橋巌さん。

高橋さんは「閉ざされた研究室で培われてきたバイオ技術で、北海道の農業をより活性化させたい」という思いから、1987年に東神楽でホーブを設立。以来、農家の役に立つ技術、品種の開発に努めてきました。

「夏瑞」は、そうした万全の体制が整って生まれるべくして、生まれた夏イチゴの女王だったのです。その生産拠点は、中富良野町の直営農場。現場をとり仕切るのは、イチゴ栽培のベテラン、加野仁司さん。
「苗づくりから花を咲かせるまでが大事な時期、気を抜けません。花と葉が大きくしっかり育てば、後は私たちの仕事に応えるように夏瑞自身が良い実をつけてくれるんですよ」と、加野さんは日に焼けた顔をほころばせながら語ります。
夏瑞の畑は、ビニールハウスの中。天窓を設けた6mほどの屋根の下、太い茎に大きな緑の葉を茂らせ、赤い実をつけた苗が、整然と並ぶ風景は圧巻です。「夏瑞は花数がちょうどよくつき、摘果作業も不要です。収穫の際にも他品種に比べてもぎやすい、最後まで非常に扱いのいい品種なんです」。加野さんは、可愛いわが子の自慢するように、夏瑞の魅力を語ってくれました。

これからの展望

本州ならば標高800mの高地でなければ栽培できない夏イチゴが、北海道では平地で健康に育つ。イチゴ栽培にはまたとない北国の気候条件を活かし、高橋さんは現在も海外品種・国内品種を組み合わせ、今も新しい品種の開発に取り組んでいます。「うちでもこれはつくってみたい。生産者の意欲をかき立て、そんなふうに言ってもらえるようなイチゴを、これからも農家目線で開発していきたいですね」と、高橋さん。これからも東神楽の実験ほ場から、人々がアッと驚くイチゴの新星が旅立っていくことでしょう。